都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
都市景観を語る言葉 (4)謙虚
(株)アーキネット代表 織山 和久
都市景観を語る言葉を充実させて、少しでもよい建築や街並みができるようにしたい。そこで前回までの「恥ずかしい」「和む」「盛りすぎ」に続き、今回は「謙虚」を選んでみた。
「謙虚に建てているね」
国立大学通り沿いのアメリカンハウス群
魅力的な街並みは、どうも謙虚な建物群でつくられるようだ。右の写真は国立市大学通りの一部だが、沿道にアメリカンハウスと呼ばれる低層長屋が連なっている。この長屋群の建築はなかなか謙虚である。まず高さでは、街路樹であるサクラよりも低く抑えられている。建物の表情は、根元の隙間から伺えるようになっている。建物もところどころ引きをとって圧迫感を抑え、外観も街路樹が映えるように簡素にまとめている。目立とうとはしていないのに、街行く人々に謙虚な建て方が深い印象を与える。アメリカンハウスは謙虚だった。
成城の和風建築1
成城の和風建築2
和風建築も謙虚であった。右の写真は二点とも成城学園の家屋である。やはり高さは抑えて、樹木より低い。越屋根を段々にあしらうことで、高さを感じさせない。建物の周りには生垣を施し、表の公共空間とも緩やかに関わっている。外観も穏健な和風でまとまっていて、緑に溶け込むかのようだ。視角に応じて表情も繊細に変化して、なかなか奥ゆかしい。のっぺり仏頂面なのとはだいぶ違う。成城はいまでは豪邸が並ぶのだが、分譲初期の建物群にはこうした謙虚な趣きがあり、成城の街並みに独特の知的な雰囲気をもたらしている。無知の知ではないが、「自分の知識に限界があることを分かっていて、自分の利害・関心ばかりを主張しない」。そんな謙虚さが知性の基本だということが成城の都市風景からふと感じさせられる。
でも、こうした知的な謙虚さは、ほうっておくとあからさまな欲望や暴力に失われやすい。下の二つの写真を見比べて欲しい。代官山一帯には、知的な謙虚さに溢れた建築群が40年以上をかけて連ねられ、東京有数の魅力的な街並みを形作ってきた。それが右側の写真の遠景にあるように、黒っぽい高層ビルが街路樹から頭を出すだけで、街並み全体を大きく乱してしまっている。都市計画では国道246号線沿いで容積率500%まで認められているので、このような高層ビルがどんどん建てられるのだが、そうなるとせっかくの40年以上もの努力が水の泡だ。都市計画も謙虚にやってほしいものである。
代官山の光景。遠方の高層ビルを省く
代官山の今の光景
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。