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マンションの注文建築「コーポラティブハウス」vol.64 


都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力

パブリックとプライベート (1)街はコミュニケーション空間

(株)アーキネット代表 織山 和久

 下町の路地には、はみだすようにして植木鉢が並ぶ。ささやかにしても草花を手入れして、生活に潤いをもたらしてくれる。そしてこうした植木鉢は、街にいろいろなメッセージを届けてくれる。街角を美しく飾りたいと住み手が意識していること、草花はみんなに見てもらいたいこと、日々の手入れのときに挨拶を交わす気持ちがあること、何より住み手が健康であること、などだ。近所の人々は植木鉢からのこうしたメッセージを何気なく読み取り、草花をきっかけに挨拶や立ち話をするし、もし草花が枯れていれば心配して玄関チャイムを鳴らす。だから孤独死には至らない。
 路地を進むと、住まいからの様々なメッセージが届いている。玄関扉はすりガラスの引き戸であり、明かりが漏れるので外からも在宅か不在かもよく分かる。鍵もかかっていないので、「ほい、おるか?」と近所の知り合いも寄る。路地をはさんで両側の窓が開いていて、悪さをした子供を叱る声やTV時代劇の音声、焼き魚の匂いなどが伝わってくる。近所のお宅の様子がそれとなく分かるので、顔を合わせたら「いい子にしてる?」「こんど神社でタブノキを植樹するからいらっしゃいよ」などと間のいい声掛けもできる。さりげないコミュニケーションがあるため、うちで塞ぎっぱなしにもなりにくい。窓が開いているので、幼児虐待や家庭内暴力にも歯止めが効く。

 表通りにもコミュニケーションが広がっている。道幅もそれほどではなく車の通行もまれだ。周りの建物はせいぜい三層で通りに圧迫感を与えない。道も湾曲していて、こじんまりした空間ができて安心感がある。そんな道端に腰かけて、ゆっくり夕刊を広げている男性がいる。通りすがりの知り合いと会釈をする。道の真ん中には、買い物途中の女性が数人、立ち話に興じている。話に加わる人もいる。ちょっと先には児童公園があるが、子供たちは路上に座り込んで遊んでいる。表に出れば遊び相手が見つかるからだろう。ちょっと表に出れば、「丸一日、だれとも口を利かずに過ごしてしまった」といった事態にならずに済む。また近所の目があるので、防犯にもなる。泥棒は必ず下見をするが、そのときに声をかけられると、顔を覚えられるのでその場所はあきらめる。

 住まい手たちは、こうしたコミュニケーション空間としての街の構造を積極的に評価している。根津の将来像についてアンケート調査では、施設面において「歩行者優先道路・買い物道路の整備」45.1%、「下町情緒を残す文化・歴史ある建物の改修・保存」45.7%。「現在の路地空間を活かす」36.1%、建物面では「日照などに配慮したあまり高い建物を建てさせない」48.7%、「火災や地震に強い建物を建てる」38.2%、が上位にならぶ。対照的に「土地の有効活用のために中・高層化を進める」は、5.0%にとどまる1)。定住意向も76.1%、「火災等への対策を期待する」(31.7%)と木造で火災危険度の高いことを除けば、、満足度も高く長く住み続けたい。
 残念ながら、こうした豊かなコミュニケーション空間は、近代の都市原理からははじき出されてきた。(関東大震災後の)震災復興の区画整理は、旧来の狭い道路を拡幅し、また多くの道路を新設しながら、街区内部の路地、裏長屋を排除するものだった2)。公共空間は人々の手から離れ、国家が管理するものになった。江戸の町人地では、道と両脇の区画が地所の基本単位で道の管理が町人に委ねられていたのとは対照的である。広い道路は街を分断し、車両の通行が優先されて立ち話や遊びもできない。建物の方も「プライバシー」重視ということで、街から分断されていく。マンションが典型的だ。鉄製の玄関扉を閉めれば、中の様子は伺えない。ベランダ側からは位置も高く見えないし、どの住戸かも区別がつかない。延々と続く片廊下、エレベーター、オートロックのエントランスでは、気軽に出入りもできない。戸建ても同様で。塀で周囲を囲み、窓はカーテン等で塞ぎ。監視カメラの下にあるインターフォン越しにしかやりとりできない。孤独死、幼児虐待、家庭内暴力、中高年のひきこもり、窃盗などの社会問題の遠因は、こうしたコミュニケーションを排除した住宅や都市計画にあるのではないだろうか。人間社会の99%以上の歴史は、プライバシーを超えた相互のコミュニケーションで成り立ってきたのだから、それは第二の自然だとも思う。住まいを、こうしたコミュニケーション空間の延長としてとらえる視点は欠かせないはずだ。

1) 文京区;根津駅周辺地区まちづくりアンケート調査, 2006
2) 陣内秀信「東京の空間人類学」1985
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。

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