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木造・戸建ての社会的費用 (2)倒壊
(株)アーキネット代表 織山 和久
大きな地震が起きたとき、木造戸建ての倒壊リスクは高い。震度6.4の想定で、阪神淡路大震災等のデータでは、1970年以前の木造(築30年超)では全壊率71%、1971-1980年(築20年超)でも50%と大変な危険度である。一方、新耐震基準以降の非木造では全壊率は3%である*1。
理由ははっきりしている。もともと木造戸建てでは建築確認申請で構造計算は義務付けられておらず、簡便な壁量計算で済ませている。しかも木材の乾燥が不十分だと、経年変化で歪みやたわみも生じる。シロアリの食害も受ける。もちろん良心的な設計・施工もあるが、大方は地震には脆い。そのため首都直下型地震の被害想定でも、全壊15万棟、死者3-4,000人とされている。
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こうした倒壊リスクに対し、例えば目黒区では「安心・安全のまちの実現」のために、耐震診断の費用の半額負担、耐震改修工事費用の80%以内で、上限120万円を助成している。他の区でも同様である。
しかし、この助成制度はちょっと考えると奇妙に思われる。自動車のエアバックは、衝突事故に対する乗員の保護に役立っているが、その費用を公的に助成はしない。あくまで自動車オーナーが、自分たちの身を守るために自分で費用負担するものだ。自動車を買わない人たちも納めた税金が、自動車オーナーの利益のために投じられるのは不公平だからである。木造への耐震化助成も同じ理屈で、非木造建物のオーナーも含む人びとの納めた税金が、木造戸建て所有者の利益のために投じられるのだから、とても公平とは言えない。
試算してみよう。都内の木造戸建ての総数は約160万戸、うち耐震性なし50万戸。木造共同住宅は約70万戸、うち耐震性なし23万戸*2。耐震性なしの木造に限っても、これらが100万円の公的助成を受けたとしたら、総額は7,800億円にも上る。一世帯当たり12万円強の負担に相当する額になる。倍近くの建築費をかけて頑丈な建物を建てた側が、割安の木造で建てた側に助成する、というのは随分な話ではないだろうか。
阪神淡路大震災の復興予算総額5兆200億円のうち、住宅関連経費は1兆1千億円を占めていた。瓦礫処理、仮設住宅、公的賃貸住宅建設等に充てられている。その行き先を全壊18万戸、半壊20万戸とすれば、一戸当たりでは約290万円になる*3。首都直下型地震の被害想定では、都内だけで全壊116千棟、半壊329千棟。ざっと掛け合わせて、1兆3千億円が主に木造家屋の倒壊処理関連に費やされる。この予算も突き詰めれば、非木造の建て主を含む人びとの納めた税金が、耐震診断も耐震補強も怠った木造の建て主のために投入されることになる。
これまでの政府や自治体の対応をみると、木造の脆弱な建物を補強したり倒壊処理する費用は、非木造の建て主を含む社会全体で負担するのだろう。木造戸建てのオーナーは、こうした社会への負担をほとんど意識していない。けれども木造戸建ての社会的費用は、耐震性に限ってもこのように100〜300万円を要する。
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阪神淡路大震災や東日本大震災における被害については、当時は十分には予期できなかった。しかし、これらの苦い教訓を踏まえて、首都直下型地震の被害も対策も十分に想定できている。木造戸建てが地震で倒壊しやすいことは、はっきりしている。したがって公平性の観点からすれば、こうした費用は本来は木造の建て主の自己負担にすべきだ。もっとも被災した家族、特に子供たちを目の前にして、「自己負担だから行政は助けません」とはならない。事後ではいけない。
これらの費用は事前に、強制的に積み立てる方式をとる。老朽木造家屋対策税といった名目で月2万円、6年超の間徴収するといった形だ。元々の構造設計がしっかりしていたり、耐震補強で万全になった家屋は、耐震診断証明を提出すれば免税する。なかには税金を払えないと不満を述べるオーナーも出てくるだろうが、それならこの機に頑丈な鉄筋コンクリート造の集合住宅に建て替えばいい。元のオーナーは等価交換で追加負担もなくその一住戸に住み替えることができる。一帯で共同建て替えするのも素晴らしい。東京全体が自ずから災害に強い街になる。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。