都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
コーポラティブハウスとコミュニティ(4) 外観
(株)アーキネット代表 織山 和久
外観とアイデンティティ
共有の中庭は、各戸の居住環境を高めるとともに、コミュニティ意識を育むのに、重要な役割を果たしています。
街並みを引き立てる外観 |
夜は各戸から明かりが見える |
「(近所の知り合いに)『あの家に住んでいるの!』と言われてうれしい」
「帰宅時に(全面ガラス張りの他の住戸から)光があると、ほっこりする」
「多面的で、街並みに威圧感なくて表情が優しいのが気に入っている」
「(外壁の塗り替えの際に)やっぱり元のイメージを大事にしたい」
「この建物の外観に合わせたように、周りも建て替えられていい感じだ」
建物の外観にも一体感を感じ、性格づけやイメージを自分たちに重ね合わせているかのようです。このような言葉を伺うと、建物の外観は、コミュニティのアイデンティティを表現していると言える気がします。そこには、価値観を共有しながら自分たちでつくりあげた建築であり、年月を経て一緒に暮らすという意識も反映しているのでしょう。
社会と自分との関わり
住宅の外観と住まい手との関係は、衣服と着る側との関係に似ています。衣服にも体温の調整や身体の保護、耐久性といった機能も求められるとともに、社会と自分との相互作用も表現しています。どんな場であっても黒のタートルネックのセーターとジーンズというスタイルで通すのは、いつでもどこでも変わらない自分(とそのプロダクツ)という表現でもあり、周りも自分も「自分が本当に何をしたいのか、他のことは二の次でいい」という姿勢を共有していく作用があると思います。あるいは、会社内で浮かないように、と無難なスーツで装っていると、周りも本人も無難な人物と認識して、セルフイメージでもいつの間にか無難な自分になります。お嬢様ファッションに身を包めば、周りも自分もお嬢様のように自己主張を伏せた身振り話しぶりになることでしょう。
建築の外観は、社会と自分との関係について強いメッセージを与えています。周りの街並みから突出した巨大な高層マンションは、強く誇り高いマッチョの好み(はっきり言えば男根崇拝)を暗黙に表現し、周りを見下ろす気分に染まりそうです。巨大な組織に属して力を発揮するが、一人一人は匿名で交換可能な存在、といった感じでしょうか。よくある分譲マンションは、どんな街並みでも同じような外観パターン、名称もそれを反映して、○○ハイム青戸第三、○○マンション荻窪第五、となっています。こうした外観のマンションでは、セルフイメージも固有名詞を持たずに大勢の中に埋もれるone of themという存在になってしまいそうです。本当にそうでなければいいのですが。
ひとをつくる コミュニティをつくる
アーキネットのコーポラティブハウスでは、外観はこれらとは違うメッセージを与えています。街並みに調和して、街並みを穏やかに引き立てる外観・規模。外に大きく開かれた開口部。個々の住戸単位とそこで育まれる多様な暮らし方を反映したような見え方…。社会に貢献・調和しながら、自分なりのあり方を大事にする、という成熟したセルフイメージが与えられるのではないでしょうか。
ある建築家がぽつりと言われたのですが「昔は自分のこだわりが強かった人だが、暮らし始めてからずいぶんおおらかになったよ」。そんな話に「ひとが家をつくり、家がひとをつくる」という言葉が思い出されます。外観との相互作用で居住者全体にこうしたセルフイメージが培われ、結果として心地よいコミュニティ意識が形成される、というのはとても重要なことだと思います。
街並みに調和した規模・外観 |
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。