都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
エコとコーポラティブハウス(4)
エコライフ
(株)アーキネット代表 織山 和久
大どころから目をつける
温暖化対策は「できることから始めよう」とよく言われています。しばらく使わないコンセントは元から外す、こまめにスイッチを切る、Myお箸を持参する、設定温度を常温に近づける、エコ家電や自動車に買い替える、などなど。
でも実際にやってみると分かるように、温暖化ガスの削減効果も結構相殺されています。忙しい朝、コンセントを付け忘れてトーストが焼き上がっていなかった、という失敗もたびたび。スイッチを切るのも、つけるたびに余分な起動電力を使うし、生真面目対鷹揚で夫婦げんかの元になったりします。Myお箸では、割り箸需要が減って、間伐があまり出来ずに森林が荒れると批判を受けたり。どうも精神論だけでは辛いしうまくありません。
ここで合理化の鉄則を思い出しましょう。費用項目の大どころから順に削減案をいろいろ考え、改善幅の大きいところから実施していくやり方です。温暖化対策であれば、費用項目の代わりに二酸化炭素排出量の用途別内訳を考えます。右図*1のように、比重の大きいのは順に、自動車から 32.6%、照明・家電製品から 30.7%、冷暖房から 14.0%、給湯から 13.4%、といった割合です。家庭の温暖化対策も、この順に検討していくのが筋です。
1.自動車から
(1)エコカーへの買い替え
自動車からの二酸化炭素排出量を、大きく減らす対策を考えてみます。エコポイント絡みですぐ発想される案ですが、トヨタの計算によると従来のガソリン車をプリウスに買い替えると、走行距離が同じならCO2総排出量は42%減らせるそうです*2。そうすると家庭全体では14%(=42%×32.6%)減らせる計算です。けれどもプリウス一台を作るときに余分に排出される二酸化炭素の量を忘れてはいけません。このホームページによればだいたい5.4t(ガソリン車は4.6t)。ガソリン車に乗り続ければ、この5.4tは浮いて走行で毎年1.26t排出、プリウスに乗り換えた場合は、5.4tで毎年0.65t。そうすると乗り換えて累計の二酸化炭素排出量が抑えられるまでには8.9年かかります。5年で買い替えるより、14年以上乗り続けた方がかえってエコになるという微妙な線です。実際、乗用車の平均寿命は12年弱ですから、それほど無理のない方法です。
(2)乗り方を工夫する
急加速・急発進を避けたり、車載荷物を下ろしたり、といった乗り方の工夫でも二酸化炭素排出量を減らすことができます。右の表に一覧にしてみましたが、ゆっくり発進で193kg/年、加速を減らして68kg/年、アイドリングを1日5分短くすれば59kg/年、といった削減量が試算されています*3。そんな乗り方の工夫を積み重ねれば、433kg/年、世帯全体からみて9%の抑制ができます。
(3)平均走行速度を上げる
自動車走行の平均速度を上げて、エンジンの燃焼効率を上げる、という発想もあります。国土交通省の「地球温暖化防止のための道路政策」*4によれば、三環状道路計432kmを整備すれば平均走行速度が上がり、二酸化酸素排出量を年2~300万t減らせるとのことです。でも外郭環状道路世田谷-練馬間16.2kmの事業費は1兆2,820億円*5、こんな工事単価だと総額30兆円を超えてしまいます。一方、熱帯雨林の伐採をいまの50%に遅らせるための費用が年間170億〜300億ドル*6、これで毎年20億トンを超えるCO2を吸収できます。したがって厳しめに試算しても、年1兆円を熱帯雨林保全に投じれば、毎年8.3億tの二酸化炭素排出量を抑えられることになります。2~300万tとは何百倍もの違い、論外です。温暖化対策を道路建設の口実にしないでほしいものです。そもそも都内の渋滞原因の80%は交差点付近の違法駐車*7なのだから、平均速度を上げるためなら駐車禁止の取り締まりを厳しくすればいい話です。
(4)車のいらない社会に暮らす
でももっと効果のある案があります。自動車に乗らないという手です。通勤は徒歩と電車。都区部なら都心まで半径15km以内にすっぽり入りますから、その距離なら自転車通勤に切り替えるのにもいいでしょう。買い物やお散歩なども徒歩圏内の商店街が充実した街を選べば、週末ごとに車で買い出しに行く必要もなくなります。お米やペットボトルなど、重いモノでもネットスーパーで注文すれば家まで届けてくれます。
その先ですが、市街地への自動車への出入りを制限した街も魅力的です。車線も車優先ではなくて、歩行者、自転車、路面電車に譲り渡し、一部はアスファルトを剥がして樹木の連続する公園にする施策や、袋小路にして通過交通をなくす施策も考えられます。そんな生活道であれば、屋外市場が賑わうでしょうし、高齢者も気軽に外出し、子供を安心して遊べる場所にもなるでしょう。こうして同じようにクリーンな住環境を求める人々が集まってきます。こうして家庭からの二酸化炭素排出量は、32.6%そっくり減らすことができます。コーポラティブハウスであれば割安になるので、都心エリアに住まいを所有しやすく、こうした車のいらない暮らし方もしやすいと思います。
2.照明・家電製品から
(1)エコ家電への買い替え
二番目は家庭の二酸化炭素排出量の30.7%、冷暖房の14.0%を含めると40%前後を占める家電です。まずは省エネ家電の導入効果をみてみましょう。財団法人家電製品協会によると省エネ家電の温暖化ガス削減効果は、エアコンで29%、テレビ67%、冷蔵庫46%、照明23%になるそうです*8。右図の家電の種類ごとの割合*9に当てはめると、四種製品をすべて買い換えれば、合計で25%、家庭全体にして8%弱に当たる温暖化ガス排出量を減らす効果があります。また全ライフサイクルの二酸化炭素排出量における製造時の割合は、エアコン5%、テレビ30%、冷蔵庫15%*10なので、買い替えによって元をとるまではエアコン1.8年、テレビ6.4年、冷蔵庫3.8年という水準(使用年数は10年の前提)なので、自動車に比べると効果はまだ高いようです。
(2)こまめに節電する
家電製品の主電源をこまめに切って待機電力を節約、1日5分ヘアドライヤーの使用を短くする、など地道な節電の工夫を積み上げると、二酸化炭素排出量は306kg/年を削減できます*3。設定温度を変える、など冷暖房では85kg/年というのが目安です。ちなみに、こまめに主電源を切る は60kg/年、全体の1%の削減効果なので、始終気にして神経質に言われるほどでもないと思いました。ともかくこうした節電の工夫を積み重ねると、合計491kg/年、世帯全体が4,852kg/年ですから、割合では7%ほど二酸化炭素排出量を減らせる成果になります
(3)太陽光を利用する
新たに太陽光発電を設置した場合には624kg/年の二酸化炭素排出量が削減でき、全体の割合では13%になります。製造時の投入エネルギーについては、最新のモジュールであれば1-2年で回収できる*11ので、大規模な架台をつくらずに屋根に置くならば、それぐらいで元はとれるようです。
(4)元から使わない
手で洗うから食器洗浄乾燥機はいらない、部屋干しもできるから衣類乾燥機はいらない、温水洗浄便座もいらない、と割り切った生活にすれば、3%弱の削減になります。さらに徹底して、日当たりや風通しのいい住まいにしたのでエアコンは使わない(最大14%)、早寝早起きにして日照を使うので余分な照明もいらない(最大5%)テレビも視ないからいらない(3%)、ごく寒いときだけ電気カーペット、という自然な暮らしを送ることにすれば、合わせて世帯全体にして最大25%ほどの二酸化炭素排出量を減らすことになります。実際、スイスなどでは3月末から10月末までサマータイムにして、人々も朝7時に学校や職場に着き、夕方16時には帰宅する、夏至のころは20時半まで明るいので街なかで楽しく過ごす、真夏はバカンスなので冷房はいらない、という暮らしぶりだそうです。実現できない生活ではありません。
3.給湯から
(1)お湯の使い方
思ったより二酸化炭素排出の抑制に効き目があるのが、給湯でした。「風呂のお湯を利用して身体や頭を洗い、シャワーを使わない」345kg/年、「入浴は間隔をあけずに」80kg/年、といった具合です。他の工夫を合わせれば、のべ521kg/年、世帯全体の11%弱を減らすことができるようです*3。
(2)太陽熱利用温水器
また太陽熱利用温水器では380kg/年、8%の削減が見込まれます*3。製造時の二酸化炭素排出量も太陽光発電よりも少ないはずですし、なかなか効き目があるようです。
(3)元から使わない
これは、お風呂に入らない、洗いモノなどにお湯を使わない、という手です。でも不衛生なのでこれは却下。
4.ゴミから
容器、レジ袋、プラスチックは、製造時の二酸化炭素排出量があるため、リユース、リサイクルは割合効果があります。一方のマイ箸は、毎日でも1kg/年と微妙です。こうしたリユース、リサイクルによる工夫による二酸化炭素排出量削減効果は、計204kg/*3、世帯全体の4%になります。その他は、上の表の下の方に並べています。
まとめ。
用途別に二酸化炭素削減の工夫を調べてみました。これを大きく対策のレベルで分類しなおしてみます。
1.カイゼン
きめ細かに使い方を工夫して、改善効果を積み上げる方法です。自動車の乗り方の工夫で9%、節電7%、給湯9%、ゴミ4%といった効果で、合計30%前後の二酸化炭素排出量削減になります。
2.買い替え
エコ商品に買い換える方法です。自動車ではハイブリット車に乗り換えると燃費は42%減らせるそうです。しかし製造時の二酸化炭素排出量を考慮すると、元の車に乗り続けた場合と比べると効果が上がるのは9年後(平均寿命12年なので実質3年)になるので、微妙な線です。エコ家電も8%省エネできますが、買い替えで効果が出るまではエアコン1.8年、テレビ6.4年、冷蔵庫3.8年(使用年数は10年の前提)かかります。平均寿命から試算すると、古いモノを長持ちさせる場合に比べ、自動車で3%、家電で7%前後、計10%という効果です。エコポイントの対象となって話題になりましたが、実のところその効果は、急加速をやめる、シャワーを控える、といった地道なカイゼンの積み重ねの効果にも大きく見劣りします。エコポイント制度の不公平さは露わです。
3.元から使わない
自動車に乗らない、便利家電に頼らない、という方法です。こうした割り切った生活を送れば、二酸化炭素排出量は全体の58%を削減できます。都心に近くて最寄の商店街も充実しているという街を選び、日当たりや風通しのいい住まいに暮らすなら、こうした生活もより無理せずに送れるでしょう。われわれの提案するコーポラティブハウスでは、このように機械や設備に頼らなくても、自然に心地よく過ごせる設計ですから、温暖化対策も無理なくできるのではないでしょうか。
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それにしても、日本全体の二酸化炭素排出量を最終需要部門別に配分した割合で、民生(家庭)部門は14.1%*1。つまり日本全体の二酸化炭素排出量からしてみれば、全世帯が心がけたにしても、エコ商品に買い替え 1%強。カイゼン 5%、元から使わない 8%、という削減効果の数値に過ぎません。京都議定書の削減率目標が6%ですから、他部門の削減努力が求められます。
例えば、オフィスビル。都の環境確保条例の対象は1,300、都内事業所の1%にも満たない数が、CO2排出量の合計は、都内業務・産業部門の約4割を占めています。空調、昇降などすべて設備・機械に依存するために、その上位には、東京ミッドタウン 6.5万t/年、サンシャインシティ 6.4万t/年、六本木ヒルズ森タワー 5.7万t/年が並びます*12。いずれも3万人規模、1万数千世帯分もの排出量に匹敵します。
これに対し、都はほぼ一律の削減目標を与えて義務化しています。けれどもそれは元々削減努力をしていないビルほど削減はラクという不公平な制度です。素直にスウェーデンのように炭素税を導入すべきです。そうなれば、家庭部門にとっても、カイゼンや元から使わない方法も報われます。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。