都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
エコとコーポラティブハウス(1)
エコ評価の問題
(株)アーキネット代表 織山 和久
エコライフ
ユニクロの回し者の方ではないのですが「冬でもヒートテックとウルトラライトダウンを着ちゃえば、あんまり暖房いらないよ。あとは足裏にホカロン」と言われたことがあります。ドイツの方もエコ重視でエアコンの設定温度を2℃下げたそうですが、寒いときには腕立て伏せをしてしのぐと聞いたことがあります。自分の二代前の世代も、冬は着物を重ね着すれば、外での作業も汗ばむくらいだし、隙間風の通る部屋内では炬燵でじっと座り、日当たりのいい時分には縁側で日向ぼっこしていたことを覚えています。縁側は、外側はガラス戸、内側は障子と二重に仕切られていて空気層が断熱効果をもたらしていました。こうした暮らし方なら、冬のエネルギー消費は最小限です。足腰を温めれば部屋全体を温めることもないし、炬燵布団という断熱材もしっかりしているので、炬燵はずいぶんと効率のいい暖房装置だと感心します。
新居関跡。中庭を囲む建屋の軒が深い |
夏の過ごし方も見事です。昔の家は軒が深くつくってあるので、日差しが奥まで入らず暑さを和らげていました。普段は襖や障子、ガラス戸も開け放して、風通しが良いので涼しく過ごせます。縁側で夕涼みという光景もよく見かけました。蚊が入るので、寝るときは蚊帳を釣っていました。日中、お日様が照った夕方には、家の前に打ち水をして熱気を抑えてもいました。これなら夏のエネルギー消費もほぼゼロです。しかし、こうした開放的な造りだと気密性は低いので、エアコンは効かなかったでしょう。
このように家の造りと暮らしの作法で、つい数十年前まではエネルギー消費や二酸化炭素排出量もほぼゼロで過ごしていたし、いまでもそうした暮らし方を実践される方もいらっしゃいます。
東京の気候
東京(大手町)の気候 |
シカゴ、ソウルやシンガポール、マニラ、あるいは旭川や那覇ならともかく、実は東京は夏冬の一時期を除けば、冷暖房に頼らずにそのまま気持ちよく過ごせる気候です。盆地と違い、余計な建物群が邪魔しなければ、東京湾からの海風など風通しも良好です。世界の大都市の中でも、東京は気候には恵まれています。
冬が寒いといっても、よくよく考えてみれば氷河期はいまから7℃も気温が低かったわけで、われわれのご先祖はエアコンや床暖房もペアガラスもない中で生き抜いています。
エコポイントの不思議
さて国は、二酸化炭素排出量の削減を狙い、住宅エコポイント制をとっています。そのエコポイントは、「外壁、窓等の断熱性能に加えて、給湯設備や暖冷房設備等の建築設備の効率性について総合的に評価して得られる一次エネルギー消費量が、省エネ法に基づく「住宅事業建築主の判断の基準(トップランナー基準)」に相当する新築住宅を対象とします。」と定められています。
要するに、高断熱・高気密にして冷暖房の効率を良くしたらポイントゲット、ということです。けれども旭川や那覇ならまだしも、東京の気候に冷暖房を前提にした高断熱・高気密の住まいは似つかわしいものでしょうか? 冒頭に説明したように、開放的な住まいで工夫して暮らせば、エネルギー消費も二酸化炭素排出量もほぼゼロに抑えられるのに不思議なことです。しかもエコライフには、残念ながら住宅エコポイントは何もつきません。
本来の二酸化炭素排出を抑制したいのであれば、炭素税を導入すべきだったでしょう。家庭に関しては、消費電力や灯油など使用量の一定割合に炭素税を賦課すれば済む話です。そうすればエコライフを送れば本人の税負担は減りますし、エコ住宅でも初期投資分を別にすれば税負担は減ります。エコの努力は同じように報われます。ついでに言うなら、エコカー減税もおかしな話で、マイカー通勤を自転車通勤に切り替えた人を尊重するなら、やはりガソリン等に炭素税をかけるのが本道でしょう。
そう考えるとエコポイントは、結局のところ、ペアガラス導入で潤うガラス業界、断熱サッシではサッシ業界、断熱材では建材業界、冷暖房設備では空調設備業界、といった業界の利益を優先させた政策に過ぎません。エコポイントを還元される方は別として、損をするのは、エコポイントの財源負担を強いられる一般の納税者になります。またこの制度が再開されるそうですが、本当に考えものです。
住まいづくりの観点からすれば、まずはエコポイント云々に紛らわされないことです。次回以降では、東京の過ごしやすい気候やエコの暮らし方を生かした住まいづくりをコーポラティブハウスの実例に即して考えていきましょう。
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「東京いい街、いい家に住もう」(NTT出版)、「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。