都心・安い・自分仕様
コーポラティブハウスの魅力
「ダイニング 食事はコミュニケーションのきっかけ」
(株)アーキネット代表 織山 和久
若い頃の食事の目的は、とにかく空腹を満たすことなのですが、
30代以降は「おいしく食べる」
60代以降は「楽しく食べる」
に移っています(表①参照)。
食事そのものから食事の時間の過ごし方が大切になっていることが伺えます。この「おいしい」は、料理そのものや口の慣れによる影響とともに、一緒に食べるメンバーが相当に左右しているようです。
そして表②のように
「一人で」より「友人と」
「友人と」より「家族と」
の方が、おいしさ、満足感とも増加しています。親しい人と顔を合わせて会話すると前頭前野が活性化されて、満腹感と安らぎをもたらす脳内ホルモン、セロトニンがきちんと分泌されるため、と説明されています。逆に一人でばかり食べていると、満腹感がなかなか得られずに過食気味になったり、食べても気持ちがふさぎがちのまま、ということになります。
一方、マスコミでは「個食の時代」と言われていますが、実際はどうでしょうか。
家族で同居している人に「一緒に住んでいる家族全員で夕食を食べることが、どれくらいあるか」をたずねると、毎日 38%、週に5〜6日くらい 12%、週に3〜4日くらい 15%という結果 *1でした。全体の三分の二の家庭では週の半分以上を全員で夕食をとっている、というのが実態です(表③参照)。また希望としても「できるだけ毎日、そろってとりたい」が60%ですから、個食の時代というのはどうも煽り過ぎのようです。
団らんという側面から調べても *2、団らんに使用される空間はリビング8割強に続き、ダイニングも5割弱、と大きな役割を担っています。
こうした団らんの時間は、平日2.0時間、休日4.1時間と毎日結構な時間がさかれています。
生活行為の中では「テレビ・ビデオを見る」が最も多く、次に多いのが「話をする」、3番目が「食事をする」で、この3つが8割以上と大勢をしめています(表④参照)。
主婦も意識の上では団らん時間は2時間ですから、30分ほど家事をしながら家族の団らんに参加している感覚なのでしょう *3。
子どもの側でも、食事のときの会話の楽しさについて尋ねると、小学生と母親では「とても楽しい」32.5%、「楽しい」47.1%、父親とでも「とても楽しい」22.4%、「楽しい」42.7%ととても肯定的です。中学生と母親でも「とても楽しい」12.6%、「楽しい」45.3%、父親とでも「とても楽しい」8.5%、「楽しい」36.1%と楽しさのレベルは下がるにしても、前向きの評価です *4。
このように考えると、食事は家族のコミュニケーションのきっかけとなり、ひきつづき家事やテレビ視聴をしながら毎日計2時間もコミュニケーションを続ける生活行為としてとらえられます。
したがって求められる空間像としては
「キッチン・ダイニング・リビングがひとつづき」であること。
それによって、食事中から食後のくつろいだ気分が広がり、家事などをしながら会話に参加することが出来、さらなるコミュニケーションが図れるでしょう。
会話が成り立つ距離は、最大3m。
一緒にいるときは1.5m *5。
このくらいの距離が適当ですから、キッチン・ダイニング・リビングの位置関係もうなずけるところです。
コミュニケーションを続けるために、対面型キッチンも人気です。団らん空間が見える対面型キッチンを望ましく思う人が50%以上、特に家事をしながら団らんに参加をしようとする人では90%を占めています*6。
このように食事は家族のコミュニケーションのきっかけです。したがって右の三点の事例写真のように、ダイニング・リビング・キッチンが一体でコミュニケーションが自然に続けられる空間が求められています。団らんという何気ないコミュニケーションを通じて、安らぎを取り戻すのですから、その意義を改めて再認識しておくべきでしょう。
*1 |
NHK「食生活に関する世論調査」2006 |
*2 |
正岡さち・飯塚智子「世代間コミュニケーションとしての家族の団らんに関する研究」 2009 |
*3 |
大田さち・国島道子・梁瀬度子「生活時間・生活行為からみた団らんの時間」1986 |
*4 |
岡田みゆき「中学生における食事中の親子の会話の実態」2003 |
*5 |
鈴木 毅「子育てを終えた夫婦の居場所」2006 |
*6 |
大田さち・梁瀬度子「キッチンとのかかわりからみた団らん空間のあり方に関する調査研究」1990 |
筆者プロフィール
株式会社アーキネット代表。土地・住宅制度の政策立案、不動産の開発・企画等を手掛け、創業時からインターネット利用のコーポラティブハウスの企画・運営に取組む。著書に「建設・不動産ビジネスのマーケティング戦略」(ダイヤモンド社)他。